公共空間にもスマートデザインの定義を

2014年に私は日経BP社を退社し、意と匠研究所を創設しました。

意と匠研究所は、デザインを活用した問題解決と価値創造をお手伝いする会社です。問題解決のための新しい仕組みを作り、問題を抱えている本人がその仕組みによって解決することを目指しています。そうした行為もデザインであり、その先に真の価値創造があると考えます。

日経BP社を退社する前年に、私はRe-Public Initiativeのメンバーになりました。公共空間の管理や運用を、公私や官民にはっきりと分ける従来のやり方では限界に来ている。もっとボーダレスなやり方でこそ新しい価値を生む。Re-Public Initiativeのこうした基本姿勢が、当時始めたデザイン運動「スマートデザイン」に似ていると思ったのが、参加を決めた理由です。

これまで私たちは生活に関わるモノを、いつも使うモノともしもの時に使うモノに分けていました。しかし災害が起きた時に、もしもに備えたモノが実は使いにくかったり、使い方が分からなかったり、そもそも身の回りになかったりということが問題でした。そこでいつも使うモノを、もしもの時にも使えるようにしようというのが、スマートデザインの定義「いつもともしもをつなぐデザイン」の基本です。

現在、国土交通省からの依頼で、私は首都圏のある市の道の駅アドバイザーを務めています。この市はベニバナの生産地ですが、かつて染料として使われていたベニバナの需要が激減し、ベニバナを栽培する農家がもうほとんどなくなりました。市はベニバナを復活させようとしているのですが、農家に無理を言って栽培してもらうにはリスクが大きい。だったら市が市民に苗を配り、家の庭や玄関先、道端、畑、学校、公園などに自主的に植えてもらう、市民運動にすればといいのではないかと提案しようと考えています。街を散策すればあちこちにベニバナが咲いている…。そんな素敵な風景が生まれ、収穫も可能でしょう。しかし公私や官民を分けると、こうした市民運動はできません。

道の駅アドバイザーを務める市の、道の駅予定地とベニバナ畑

道の駅アドバイザーを務める市の、道の駅予定地とベニバナ畑

また、佐賀県からの依頼で、有田焼創業400年事業のデザインディレクターを務めています。磁器産地である有田の問題の1つに、来訪者を受け入れる交通や宿泊などのインフラが整っていないことがあります。そこで使われていない工場や施設、空き家などを活用し、「Airbnb(エアビーアンドビー)」いわゆる「民泊」を振興しようとしいう動きがあります。これも公私や官民の壁を越えて、自治体がサポートをしつつ、民間主導で進めることが大切です。

佐賀県有田町にて定期的に開催している「ARITA VALUE CREATION LAB—有田焼価値創造研究処—」(通称アリラボ)

佐賀県有田町にて定期的に開催している「ARITA VALUE CREATION LAB—有田焼価値創造研究処—」(通称アリラボ)

このようにRe-Public Initiativeの基本姿勢にスマートデザインの定義を融合しながら、公共空間のあり方を変えるアイデアを提案したいと思っています。

下川一哉
株式会社意と匠研究所代表 / 日経デザイン・前編集長
1988年、日経マグロウヒル(現・日経BP社)入社。日経イベント編集、日経ストアデザイン編集などを経て、1994年に日経デザイン編集に配属。1999年より副編集長。2008年より編集長。2014年3月31日に日経BP社を退社、意と匠研究所を設立。
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